営業収入の会計は簡単そうに思えるかもしれません。資金がどのくらい入ってきて、それと引き換えに何を販売し、その交換をいつ行ったかを文書に残せばいいだけのように思えます。しかし、ほとんどの場合、収益の消し込みはそれほど簡単ではありません。実際、Stripe の最近の調査で世界の財務担当リーダー 1,700 人を調査したところ、財務チームの 40% が毎月 10 時間以上をかけてデータ照合時に起きるエラーや不一致に対応していることがわかりました。
会計が複雑になる原因の 1 つは、多くの企業が商品やサービスを提供すると同時に購入者から支払いを受け取るわけではないためです。サブスクリプションモデルを運用したり、複数の支払いオプションを提供したりする B2B 企業や B2C 企業、特に事業規模が拡大した企業の場合、収益をめぐる状況はさらに複雑です。支払いからフルフィルメントが行われるまでに数カ月、場合によっては数年も間が空くことすらあります。こうした収益の会計はどのように行えばいいのでしょうか?
一般に公正妥当と認められた会計原則には、さまざまなシナリオにおける収益の計上方法を規定するものがあり、企業はそれに準拠することが重要です。その原則の 1 つが、企業の財務諸表に収益を計上する方法とタイミングを決定する収益認識です。収益認識でよく利用されている方法として、未収収益があります。
未収収益が企業の全体的な財務状況にどのように組み込まれるかを理解することは、会計に対する戦略的アプローチを策定するうえで重要です。未収収益の概要、計上方法、会計における重要性、業界別に未収収益が発生する仕組み、会社の財務諸表に与える影響など、知っておくべきことを大まかにまとめました。収益認識が簡単に済むことはほとんどありませんが、適切なアプローチを理解しておけば対処しやすくなります。
この記事の内容
- 未収収益とは
- 発生主義会計の原則とは
- 未収収益と売掛金の違い
- 未収収益と前受収益の違い
- 未収収益は資産か負債か
- 未収収益の例
- 未収収益の計上方法
未収収益とは
未収収益とは、獲得したものの、まだ支払いを受けていない収益です。このようなタイプの収益は、会社がサービスの実施後や商品の納品後に購入者に請求する場合に発生します。会計において、未収収益は会社が購入者に請求書を発行して支払いを受け取るまでは、資産と見なされます。
たとえば、12 月にクライアントにコンサルティングサービスを実施したが、翌年 1 月まで請求書を発行しないというケースがあります。その場合、12 月時点ではその売上を「未収」として計上し、1 月に請求書が支払われた時点で「受領済み」と認識します。
もう 1 つの例は、サブスクリプションベースのサービスを月間または年間利用料で提供している SaaS 企業です。購入者が 12 月にサービスのサブスクリプションを購入したものの、翌年 1 月まで年間利用料を支払わない場合、企業は 12 月時点ではその売上を「未収」として計上し、支払いが行われる 1 月までは「受領済み」と認識しません。
未収収益は会社が今後受け取る予定の売上を測定するものであり、ビジネスの業績の推移を追跡する方法にもなるため、会計と財務分析において重要な概念です。未収収益はビジネスの財務諸表に大きな影響を与える可能性があるので、追跡と計上は正確に行うことが肝心です。
発生主義会計の原則とは
未収収益は、会計の基本原則の 1 つである「発生主義会計の原則」に従って処理する必要があります。この原則は、財務諸表では収益と経費を、支払いを受けた時点ではなく発生した時点に対応付けて認識する必要があると定めたものです。言い換えると、発生主義会計は支払いの時点ではなく、企業が収益を獲得する行為を実施した時点に焦点を当てたものです。
発生主義会計の原則では、企業が購入者から商品やサービスに対する支払いを受けていなくても、提供した時点で収益として計上します。経費の場合も同様で、まだ支払っていなくても、費用が発生した時点で計上します。このようにすることで、企業の財務実績の全体像をより正確に把握し、包括的な財務状況をより細かく理解できます。
発生主義会計の原則としては次のものがあります。
- 収益認識
収益は、支払いを受けたかどうかを問わず、獲得した時点で認識する必要があります。 - 費用収益対応の原則
費用は同期間の収益に対応している必要があります。 - 保守主義の原則
収益と利益は発生する確実性がかなり高い場合にのみ計上し、費用と損失は発生することが想定されたらできるだけ早く計上する必要があります。 - 継続企業の原則
企業が解散・倒産せず、将来にわたって事業を継続することを前提とします。
発生主義会計の原則は、さまざまな業界であらゆる規模の企業に広く用いられています。企業の財務状態を総合的に表すものであり、投資家、アナリスト、その他の利害関係者が企業に関する意思決定を行う際に重要な判断材料になります。
未収収益と売掛金の違い
未収収益と売掛金はどちらも、企業が獲得したもののまだ支払いを受けていない収益に関するものですが、収益認識プロセスの異なる段階を表しています。
主な違いをご紹介します。
- 未収収益は収益を獲得した時点で認識されますが、売掛金は請求書を送付した時点で認識されます。
- 未収収益も売掛金も貸借対照表では資産と見なされますが、売掛金は未収収益とは別に記載します。
- 未収収益は企業の損益計算書で「前受収益」の欄に記載されますが、売掛金は「売掛金」または「売上債権」の欄に記載されます。
未収収益と前受収益の違い
未収収益と前受収益は概念が似ていますが、意味は若干異なります。主な違いは、未収収益は支払いをいつ受けるかを問わず、獲得した時点で認識されるのに対し、前受収益は収益をいつ獲得するかを問わず、支払いを受けた時点で認識される点です。
前受収益は主に、企業が今後提供する予定のサービスの代金を前払いで受け取った場合に発生します。その場合、企業の貸借対照表に負債が記載されます。サービスを提供し終えるまでは収益を計上しません。
未収収益とは異なり、前受収益は負債と見なされます。企業が将来にサービスや商品を提供する法的債務を負うためです。損益計算書では「前受収益」として計上されます。
SaaS サブスクリプションモデルでは、前受収益がいろいろな形で発生します。
年間サブスクリプション
SaaS 企業が年間サブスクリプションを割引価格で提供していて、利用者が全額を前払いで支払った場合、企業はその収益を、利用者にサービスを提供する年の 1 年間にわたって計上します。前払いサブスクリプション
同じ SaaS 企業が、数カ月分のサービス料金を利用者が前払いで支払う前払いサブスクリプションを提供しているとします。その場合、企業は収益を、利用者への債務を果たす前払い期間にわたって計上します。
どちらの例でも、利用者はサービスの料金をすでに支払っていますが、企業はまだサービスを提供しておらず、その収益を獲得していません。そのため、金額は「前受収益」として計上されます。前受収益は将来的に企業が利用者にサービスを提供した時点で、実現収益として計上されます。これは、支払いを受けた時点ではなく、収益を獲得した時点で認識するように定めた発生主義会計の原則に従った処理です。
未収収益は資産か負債か
未収収益は、獲得したもののまだ受け取っていない収益を表すため、貸借対照表では資産として認識されます。企業がその収益に関連する商品やサービスを提供すると、債務が果たされます。そのため、この収益は負債ではなく資産と見なすことができます。未収収益は 1 年以内に回収できる見込みであるため、流動資産と見なされます。
未収収益の計上と追跡を適切に行えるかどうかは、時間が経過し、支払いが開始されたときに未収収益がどのように扱われるかによって決まります。未収収益は通常は「未収収益」勘定科目の借方、「売上高」または「収益」勘定科目の貸方として計上されます。未収収益の金額は、獲得したがまだ受け取っていない収益の現在額を反映するように定期的に調整されます。収益を受け取ると、「未収収益」勘定科目が減って「現金」勘定科目が増えるため、企業の現金残高が増えます。
たとえば、企業が月額 100 ドルのサブスクリプションサービスを利用者に提供しているとしましょう。1 月初めの時点で、この企業にはサービスに登録して毎月料金を支払っている利用者が 100 人いました。1 月末の時点で、企業はその月のサービスを提供し終わりますが、利用者からの支払いはまだ受けていません。
収益を獲得したもののまだ支払いを受けていないため、1 月末の貸借対照表では、1 万ドル (100 ドル x 100 人の利用者) を未収収益として計上します。「未収収益」勘定科目の借方に 1 万ドル、「売上高」勘定科目の貸方に 1 万ドルを計上します。
2 月末の時点で、獲得したもののまだ受け取っていない収益の現在額を反映するように「未収収益」勘定科目を再調整します。2 月に、1 人の利用者がサブスクリプションを解約し、もう 1 人の利用者はまだ請求書を支払っていないとします。その場合は、回収予定の収益の現在額を反映するように、「未収収益」勘定科目を 200ドル (解約されたサブスクリプション分の 100 ドルと、支払っていない利用者分の 100 ドル) 減らします。そして、「貸倒損失」勘定科目の借方に 200 ドル、「未収収益」勘定科目の貸方に 200 ドルを計上します。
3 月にすべての利用者が期日までに請求書を支払ったとすると、「未収収益」勘定科目を 1 万ドル減らし、「現金」勘定科目の借方に 1 万ドルを計上します。獲得したもののまだ受け取っていない収益の現在額を反映するように「未収収益」勘定科目を調整する処理は、毎月継続して行います。
未収収益の例
未収収益は多くの業種でよく発生するもので、成長のどの段階にいる企業にも、財務諸表に大きな影響を及ぼします。会社のタイプ、顧客に提供している商品、顧客との関係や決済の構造に応じて、未収収益は異なる形で現れます。
業界別に未収収益の例をご紹介します。
コンサルティングサービス
あるコンサルティング企業が 6 月にクライアントにサービスを提供したものの、翌年 2 月まで請求書を発行しなかったとします。その場合、6 月時点ではその収益を「未収」として計上し、2 月に請求書が支払われた時点で「受領済み」と認識します。ソフトウェアサブスクリプション
あるソフトウェア企業が新規利用者を獲得し、その利用者が年間サブスクリプションの料金を前払いしたとします。その場合はサービスを提供する期間にわたって毎月、収益を認識します。建設
ある建設会社が住宅建設の契約を締結し、手付金を受け取ったとします。作業が翌会計年度まで完了しない場合、その収益は獲得したもののまだ受け取っていないため、未収と見なされます。広告
ある広告代理店が、翌四半期に新しい広告キャンペーンを実施する契約を結んだとします。クライアントがサービス料金を前払いで支払った場合、その収益は獲得したもののまだ受け取っていないため、未収と見なされます。保険
ある保険会社が、契約者から 1 年間の保険契約の保険料を受け取ったとします。その場合はサービスを提供する期間にわたって毎月、収益を認識します。オンラインマーケットプレイス
あるオンラインマーケットプレイスでは、各企業がプラットフォームで自社の商品を出品できるようにしており、販売が成立するたびに企業に手数料を請求しています。ある企業が 3 月に販売を成立させたものの、翌年 1 月までマーケットプレイスに手数料を支払わなかったとすると、マーケットプレイスは 3 月の時点ではその手数料を「未収収益」として計上し、1 月に支払いが行われた時点で「受領済み」として認識します。
未収収益の計上方法
未収収益の原則を理解することと、その理解を反映した会計処理を実行することはまったく別物です。未収収益の計上処理に関連する主な手順をご紹介します。
1. 収益を識別する
最初のステップは、獲得したもののまだ支払いを受けていない収益を識別することです。このような収益には、納品したもののまだ請求書を発行していないサービスや商品、有効にしたもののまだ請求していないサブスクリプションなどが含まれます。
2. 貸借対照表に計上する
収益を識別したら、貸借対照表に計上します。計上する際は、通常は「未収収益」勘定科目の借方と「売上高」勘定科目の貸方を使用します。
3.財務諸表を更新する
貸借対照表に新しい項目を計上すると、未収収益を反映するように貸借対照表が更新されます。また、損益計算書も実現収益を反映するように更新されます。
4. 利用者に請求書を発行する
未収収益を計上したら、納品したサービスや商品の利用者に請求書を発行します。
5. 支払いを計上する
利用者から支払いを受けたら、収益を受領済みとして認識します。貸借対照表の新しい項目に支払いを計上します。通常は「現金」勘定科目の借方と「未収収益」勘定科目の貸方を使用します。
収益認識の管理は複雑であり、正しく理解することが大切なので、多くの企業が会計や財務報告を細かく調整する方法として Stripe Billing などのソリューションに関心を寄せています。Stripe を利用すると、エンジニアリングの作業時間を増やしたり時間のかかる設定をしたりすることなく、収益認識を効率化できます。また、計上した収益と未収収益が一目でわかるサマリー、ダウンロード可能な会計レポート、インタラクティブな収益数値、設定可能な収益認識ルールと会計期間の管理などのツールを使用することができます。-
Stripe Billing が未収収益にどのように対応しているのかについて、詳細はこちらをご覧ください。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。